暴君と魔女
「本当に馬鹿よ馬鹿!長い間飲まず食わずで、天下の大道寺の御曹司が餓死したとか情けないニュース流すのだけは勘弁してよ!」
「・・・・ああ、家系の評判の心配ですか・・・・」
「馬鹿っ!!冗談でしょ!!」
そう言って頬を抓まれて、言ったのはそっちなのにと小さく不満を抱く。
それでも心底心配していたらしい姿に文句は告げられず、人としてまず言わなきゃいけない事に気がつき口を開いた。
「・・・・・あの、・・・・ありがとうございました」
「・・・・うん」
「死にたいと・・・思っていましたが、・・・・・生きてみる物ですね」
そう告げると僅かに揺れ動く女神の眼差し。
それを見つめてから軽く口元に弧を描くと点滴に視線を移した。
栄養なのか何なのか。
とりあえず俺の中に何かを流し生きながらえさせた物。
「・・・・・俺の事で・・・悲しむ人はいないと思ってました」
実の父は名ばかりで、俺の身を今更案じたりはしない。
本当に心配してくれそうな存在は姿を消した。
そうして俺に残った物といえば自分の望まない多大な家系の重圧。
ただ・・・自分を蝕むだけの栄光と財力。
今も残っているのだろうかと目に見える筈もないそれを掌を見つめ確認していると、しばらく黙っていた桐子さんが深く息を吐き髪を掻きあげた。
「・・・・・いなくなったのね」
瞬間強く心臓が跳ねる。
そしてすぐに反応する体。
聞きたくないと・・・・拒絶する。
「四季ちゃーーー」
その名前を、存在を鮮明に思い出した瞬間に逆流し込み上げてくるもので咄嗟に口を覆う。
その異常さに表情を歪めた桐子さんが近くにあった容器をすばやく持ちだし、その中に躊躇いなく吐き出してしまう。
また水分かと思った。
胃には何も入っていないから。
それでも眼下に広がるのは鮮やかな鮮血で、驚く事もなく、ああ、中から徐々に壊れている。と感じ口の端をあげた。
俺のかわりの様にその赤に驚きの表情を見せた桐子さんが、それでも落ち着きを取り直して俺を見つめる。
「・・・・・ごめんなさい」
「・・・・謝る様な事じゃないでしょう。・・・・俺が単に弱いだけなんですよ」
フッと嘲笑交じりに呟いて、手で口元を擦り唇の赤を消していく。