暴君と魔女
心と体は凄いな・・・・。
密接し、心の痛みを体にも広げていく。
心が病んで、心が壊れて。
殉じるように壊れる体。
そして心が拒む物に、体も見事反応を示す。
ああ、
・・・・四季のあの行動もそう言う事だったんだな。
思わず思い浮かべた姿に再び胃がキリッとし口元を押さえる。
素早い反応で不安そうに身構えた桐子さんに心配ないと手を添えた。
吐きまではしない。
なんとか堪えたそれに安堵して、自分の口元から手を外した瞬間に別の所から感情が零れた。
「望・・・・・」
自分の頬をつぅっと伝う生温かい物。
決して泣き崩れるわけじゃなく、ただ感情のかけらとして流れ出した一筋の涙に。
羞恥も焦りもなく指先で拭い確認するとフッと笑ってその手で顔を覆い下を向いた。
「・・・・・・自分が・・・誰かも分からない」
もう、四季と出会う前の自分にも戻れない。
四季と知り合った後の本来の自分にも。
あの姿あってこそ取り戻した本当の自分だったのに、失った今ここにあるのは何もない壊れた自分。
何の欲も働かず、自分で生きようとその力が働かない。
ただの・・・悲しい感情をしまい込むだけの人形にすぎないと感じてしまった。
泣きわめく気力もなく、ただ悲しい感情のまま不動になればそっと背中に添えられた手の感触。
耳に静かに入りこむ女神の声。
「・・・・・・時効・・よね」
躊躇うような間の後に呟かれた言葉に、どういう意味かとようやく顔を僅かにあげ、チラリとその姿を捉えれば。
視線が絡み少し困った感じに微笑む表情。
俺の手に残る鮮明な赤に視線を走らせ僅かに緊張しながらその名前を口にした。
「・・・・・四季ちゃんの、愛し方への執着よ」
グッと胃にきたのを堪えると、拒絶した体をなんとか抑え込みその言葉に反応し顔をしっかりとあげていく。
俺のその姿勢に気がつくと、深く息を吐きだしてからどこから話そうか思案した後に動きだす唇。
「四季ちゃんはね・・・・前の恋人を守れなかった事にずっと縛られてたのよ」
響いた声が静かに空気に溶けて消えていく。
守れなかった。
その言葉で、四季が抱え込んでいたあの異常なまでの守る愛への執着を理解した。