暴君と魔女
「相変わらず秋光は無表情だな」
呆れて本音を漏らせば、疲れたと目を擦っていた四季が反論を返す。
「そんなことないですよ~。秋光は嬉しいと照れて物に隠れるんです」
「それは表情じゃねぇよ馬鹿女」
「でも可愛いんですよぉ」
そう言って微笑ましく秋光を見つめる四季に溜め息をついて、今も1人無言で遊ぶ秋光を見つめてしまう。
うっかりそんな風に無駄にその場にとどまってしまい、我に返った瞬間に慌てて立ち上がり自室に戻ろうと歩き出す。
「じゃあ・・・、よくやった」
簡単に一言告げさっさとこの場から逃げ出そうとしたのに一足遅く。
歩き出したのにすぐに引き戻しにかかる力に、自分の不意の油断に落胆して振り返る。
捉えるのは満面の笑みで俺を見上げる四季の姿。
「おい、離せ。皺がつくだろ馬鹿女」
「望様、あまりお顔の色がよくありません」
「・・・・疲れてるだけだ」
「疲れには甘いものです。今温かくて甘い物お作りしますからお座りください」
「いらねぇよ。ってか、ずっと思ってたんだがその不自然な敬語なんなんだよ?!」
「やっぱり雇い主様なので敬語が自然かと」
「なんか、余計に腹立つからやめろ」
「もう・・・癖になっちゃいました」
そう言って眉尻を下げ苦笑いを浮かべる女をどう対処していいのか分からない。
今までこんな風に程度の低そうな女を近くに置いた事が無いからどう反応するのが正解か分からないで翻弄される。
だから必要最低限の接触は持ちたくないというのに、この女ときたら・・・・。
「とにかく・・・俺は部屋に戻る」
「いけません!体は全ての資本でしょう?望様が体を壊したら私も秋光も路頭に迷うんですよ!!」
「それが本音かこの馬鹿女・・・・」
「心配してるんです」
そう言って俺の腕にそっと手をかけ綺麗なグレーが真顔で見上げる。
四季の唯一の魅力であるその眼。
全てを見透かすその眼に見つめられると俺は逃げる術を全て失う。
本当になにか魔力でもってその動きを封じる様なそれに、最終的に溜め息をつくと諦めたように言葉を紡いだ。