暴君と魔女
「っ・・・凄い!凄いです、望様!!」
「耳が痛ぇよ馬鹿女。至近距離で叫ぶんじゃねえ」
気がつけばその手にトレーを手にした四季が俺の横に膝をついて、今飛ばした紙飛行機に興奮して俺を見つめる。
「すみません。だけど、凄いです!あんなにずっと飛ぶ物なんですね。私が作った物は手から離れた次の瞬間に床にありました」
「あんだけ芸術的仕上がりじゃあなぁ」
「えっ、ありがとうございます!」
「馬鹿にしてんだよ!喜ぶな!」
この女には皮肉や嫌味が通じない。
意味を言葉のままに受け止め的外れに喜び俺の調子を乱す。
頭を抱え何をしているのかと自分に問いかけるように眉根を寄せれば、すぐにフワリと鼻を掠めた甘い香りと響く声。
「望様・・・」
「あっ?」
ぶっきらぼうに声を響かせ不機嫌を表す様に顔をあげれば、返事を返し開いた口に容赦無く入り込んだ物。
焼ける様に甘い味と匂い、フワリとした触感のそれからジワリと舌に染み出る甘味。
「・・っ・・甘っ」
「はい、パンケーキにたっぷり高級メープルシロップがけです」
「かけ過ぎだろ!?甘過ぎてベタベタでパンケーキの味も触感もわからないぞ!」
「望様は糖分足りなさそうで」
「糖尿病になったらどうしてくれんだ馬鹿女」
「す、すみません。・・・焼き直します」
何で・・・怒らない?
自分でも作った努力を踏みにじるような言い方をしているのはわかっている。
だから、いい加減不愉快そうに言い返してきたらどうなんだよ。
そんな風に少し気落ちしたようにも見える四季の後ろ姿を見つめ、でもすぐにキッチンで再び一から作り直そうとする姿にため息交じりに立ちあがった。
何で俺が・・・。
そんな心中でキッチンの四季に近づいて、隅に置かれたトレーから激甘なパンケーキの皿を取り上げ近くの椅子に座る。