暴君と魔女
珍しく驚いたように俺を見つめる四季に、特に視線を移すでもなく。
今にも蜜が滴れ落ちそうなそれを口に放り込む。
瞬時に広がる甘ったるさに酔って気持ち悪くなりそうだが・・・。
「望様?・・・・もしかして」
「・・・・何だよ?」
勘違いするなよ。そう言葉にしようかと不愉快そうに眉根を寄せ振り返れば、返された四季らしい返事。
「嫌な物を我慢して食べる程お腹空かれてたんですか?」
「お前一度死んでこい」
「ええっ、何でそんなお怒りですか?!」
「お前の思考能力の悪さにイライラすんだよ。気を使ったとか思わないのか・・・よ・・・」
そこまで口にして自分で地雷を踏んだと固まった。
そう、踏んで・・・・どう出たものか・・・。
下手に動けば自分の身を滅ぼしそうな地雷に内心動揺するのに顔では平静を装って。
自分でもあり得ない稀な他人への感情の同調を誤魔化すつもりが自ら認めてしまった。
そうして固まっている俺をきょとんとした丸い目で見つめていた四季が、すぐにふわりと微笑んで俺の傍に近づくと床に膝をついて俺の顔を覗きこんだ。
何だよ?
そんな調子に目を細めたのに、そこは俺の心情なんてお構いなしの馬鹿女。
「嬉しいです。気を使って下さったんですか?」
この馬鹿女~・・・・・。
人が突かれたくないとこズケズケと指摘してくるんじゃねぇよ。
「言葉のあやだ。お前なんかに気を回すほど生易しい男じゃないしな」
「・・・そうですか?望様は優しいですよ」
「・・・・・お前、優しいって物を理解していないんじゃないか?」
四季が微笑みながら俺に【優しさ】を語るのに嘲笑を漏らす。
やはりこの女は馬鹿なんだ。
俺が無償で何かをする様な男だと見ていたのなら本当に愚かな女。
「俺は見返りある者に対してしかこんな待遇をしないし、お前の訳のわからない行動に付き合っているのもそれ相応の利益がでているからだ」
そう言ってさっきの書類の束を見つめる。
四季に固執してこんな特別待遇を与えるのも全ては自分の利益の為。