暴君と魔女
なのにいつもみたいに心底呆れるでもなく、仕方ないとあっさり諦める自分の健在。
バルコニーの手すりに寄りかかって四季が称賛した夜空を見上げて息を吐く。
ふわり煽る風は確かに心地いいもので、自分に絡みついた嫌な香水の匂いすら掻き消してくれて。
フッと目蓋を閉じたと同時に響く四季の声。
「望様、ご用意しました」
その声に反応して視線を移し、入りこんだ緑に僅かに驚いた。
「・・・・四季、・・・それ、どうした?」
「あっ、これですか?綺麗ですよね、廊下に落ちてたのを拾ったんです」
四季が手にしている大きなトレーにはケーキとお茶のセット、それから一輪ざしに挿された淡いグリーンの花。
俺が廊下に投げ捨てたそれを、結局は四季が手にしたのだと気づき力なく笑ってしまう。
その様子に首を傾げ微笑みながら四季が近づきバルコニーの床にゆっくりと座った。
「何が可笑しかったのですか?」
「・・・いや、面白い偶然もあるものだと思ってな」
「難しいです」
「いい、こっちの話だ」
言葉を濁し自分も四季にあわせてその場に座る。
こんな所を見たらあの親父様はきっと憤怒してしかりつけたんだろうな。
【行儀】の悪い最低の行為として。
だけど今は・・・この場所にはいない。
何のためらいもなく、僅かな砂ほこりがつく事も厭わずしっかりとそこに座れば、慣れた手つきで四季が温かい紅茶をカップに注ぐ。
その様子を横目に花瓶に挿されている淡いグリーンに視線を向けた。
じっと見つめ、そしてふわりと鼻を掠めた匂いと熱で視線と意識をそれに移した。
カップから香る紅茶の匂いと湯気の熱がその正体。
それを差し出し口元に弧を描いている四季。
「どうぞ」
「・・・・・ああ、」
「ふふっ、本当に今日の望様は大人しい」
「あっ?」
「とても・・・穏やかです。いつもキリキリと張っている糸が緩んで・・・」
それは・・・・お前の魔力だ。
よくは分からない。
でも、鬱陶しいと跳ねのけても、自分には不必要だと目を背けても、無琉やりに入りこむ四季という存在。