暴君と魔女
「【様】付けやめろ・・・・・」
フッと絡むグレーの眼からの視線。
僅かに驚きを孕んだそれが揺れ動いてすぐに静まる。
吹き続けていた風が静かに治まり、四季の髪が重力に従順な位置に落ち着いた。
「いいえ、望【様】・・・」
響いた四季の返事に眉根を寄せる。
否定する言葉と相変わらず付属する【様】に不愉快に顔を背ければ、複雑な表情で口元に弧を作りだした四季が俺を言い伏せる言葉をつけたした。
「・・・・・・これは自分への戒めなのです」
思わずその姿を振り返る。
捉えた姿は俺に静かに頬笑みカップの紅茶を差し出してきた。
「いつか・・・・望様にかけられた呪いも解けるでしょう。
・・・・・・素敵な女性の存在によって」
「・・・・まだ、呪いの話か」
「・・・・・・・参考までに読んでみるといいですよ。
【Beauty and the Beast】美女と野獣です」
差し出された紅茶を受け取ると四季の言葉に複雑に笑う。
確かに・・・その話で言う美女にお前は当てはまらない。
「・・・・・お前は・・・呪いをかけ、諭す側の魔女だからな」
「・・・・その通りでございます」
そうだ・・・・そうだったよ。
うっかり魔力に惑わされ、完全に自分を見失っていたのは俺だな。
カップの紅茶をグッと飲み干すと空のそれを見つめてから床に置く。
スッと立ち上がり深く息を吸って四季を見下ろせば、逆に見上げていた視線と絡んだ。
穏やかな表情で俺を見つめる四季に手を差し伸べるでもなく言葉を落とした。
「四季・・・仕事だ。さっさと片付けて俺の役にたて」
「・・・・望様の仰せの通りに」
こうして自ら鎖を繋ぐ。
自ら呪いにその身を沈め、諭す魔女を従える。
なのに・・・・。
交わした口づけはその呪いをすでに解き始め、
呪い以上の愛に苦しむ。
俺の傍から魔女は消える。