暴君と魔女




車の中で特に何の興味もわかない一般的には美しいと称賛される女の写真を見つめて溜め息をついた。


綺麗な装丁の写真は俗に言う見合い写真で、父親の選んだ完璧なる女の1人。


どれを見たところで作り笑いで厚化粧のまがい物だと雑にシートに投げ捨てる。


そうやってここ何年かは逃げていたけれど、さすがにそろそろ本腰を入れてきた親父様がいい加減に跡取りを作れと急かしてくる。


跡取り・・・つまりは権力を維持する、あの男には単なる手駒を・・・。


また・・・俺の様な愛のない子供を作れと言うあの父親に呆れつつもいつかは実行しなくてはいけないのだと視線を落とす。



「・・・・・鎖・か」



消え入りそうな声で呟いた自分の運命の様な物に心のない笑みを口元に浮かべ窓の外の景色を見つめた。




















「おかえりなさいませ望様」


「・・・・・・・仕事だ」



そう言って相変わらずヘラっと笑う四季の横を抜けて奥に進めば、不満を孕んだ声が俺を追いかけて批難する。



「望様、帰ってきたらきちんとご挨拶なさいませ」


「疲れてんだよ。お前の遊びに付き合ってる余裕はない」



面倒だと振り返るでもなくソファーにつき進み乱暴に体を投げ出してしまう。


そんな俺を小さく息を吐いてからじっと見つめる四季が、しばらく不動の後にぽつりと俺の疲れを指摘する。




「・・・また、お見合いのお話が?」


「お前はズケズケとプライバシー関係なく読んでくるな」


「まぁ、読むまでもなくお顔を見れば分かります。どう見てもお仕事で疲れたという感じではなかったので」


「あっ?」


「望様はお仕事の時より女性が関わる事態の時の方が断然お疲れなお顔をしてますよ」


「・・・・・」



しまった、言い返す言葉が出てこなかった。


その事にも不覚だと眉根を寄せ舌打ちすれば、勝ったと言う様に目を細め微笑む四季に持っていた書類を雑につきだす。


それを丁寧に受け取ると、ゆっくりと俺の隣にその身を置く四季。


ふわり香るいつもの匂いにどこか安堵し僅かに苛立ちが緩む。


それでも緩みすぎない程度に書類に目を向けるといつもの様に四季のお告げに耳を向けた。



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