暴君と魔女
視線を書類に落としたまま耳に流れ込む四季の声はもう当たり前の物となっていて、それこそ生活の中で入りこむ自然な物音の様にそれを聞き入れてしまう。
それは良くも悪くも俺の体に影響するらしい。
そう、どうもこの声音は俺の疲労を刺激する。
「・・・様・・・・望様」
響く声に我に帰り微かにぼやける視界に困ったように微笑む四季が映りこむ。
ああ、また・・・。
「・・・相変わらず・・魔女の呪いが・・・」
「私のせいですか?望様が普段からお休みになられないからですよ」
「忙しいんだよ」
「はぁ、これはお父様のいう事も一理ありですよ」
「あっ?」
溜め息混じりに父親の賛同をし始めた四季に、全く相容れなそうなこの2人がどう意見が合うのだと眉を寄せる。
そんな俺の表情を捉えた四季が俺の手から落ちていた数枚の書類を拾い上げながらその言葉を落としてくる。
「望様には私生活を支えて下さる方がいた方がいいですよ」
「なんだそれ・・・・」
「早く身を固めてはいかがですか?お会いになってみれば素敵な方かもしれませんから」
あっさりとそれを告げ俺に書類を差し出しながら微笑む四季に、いつもの様に舌打ちで応戦すると書類を受け取った。
「俺に指図するな。誰とどのタイミングでそれをするかは俺の自由だ」
「ええ、強制しているわけではありませんので。・・・望様のお心のままに」
にっこりと微笑む四季。
ああ、こっちの方がなんとなく自然に笑う四季だと感じる。
すぐに書類に落ちた視線が一応最後までチェックの入ったそれを上から下まで一気に確認し、落ち度が無いそれをもう興味が無いと床にばらけさせる。
左右に揺れながら不規則に舞って落ちるそれに四季が批難して、眉根を寄せ動き出そうとのをそっと肩に頭を預け引きとめた。
強まった香りで四季との距離を感じ、そのどこか安心する柔らかい匂いに目蓋を閉じる。
「・・・・・眠いのですか?」
「・・・・疲れた」
「・・・どうせなら、横になられたらどうですか?」
柔らかい四季の申し出に、特に躊躇うでも恥らうでもなくそのまま体を倒し身を預ける。
視線を上に向ければ絡むグレーの眼差しは何の含みもなく微笑んで見降ろした。