暴君と魔女
一瞬考え込んでから自分の状況を思い出し視線を上に向けてみる。
だけど視線は絡むことなく、いつも俺を見透かすあのグレーはしっかりと目蓋に覆われ長い睫毛だけを印象に残す。
「・・・・寝たのかよ」
ソファーであの状態のままどうやら四季も眠りについたらしく、深夜なのに煌々とした部屋のソファーで寝息を立てる魔女の姿。
ゆっくりと体を起こし気怠い感覚に眉根を寄せつつ隣で眠る四季を見つめ。
相変わらず白いナイトウェアに身を包む魔女に溜め息をつき、スッと立ち上がるとその細く小さな体を抱えて部屋を横切った。
寝室の扉をくぐり、大きなベッドにゆっくりとその体を横たわらせると自分もそのサイドに座りベッドが沈む。
まだ怠い感覚を拭い去るように目を押さえ、しばらくしてからその手を外した。
「戻るか・・・・」
ぽつりと声にした言葉に促され、立ち上がりながら振り返り四季を捉えると。
しっかりと夢の中に沈んでいるらしい姿を見つめ、気がつけば戻る事を忘れ無意識にその手を伸ばす。
指先が四季の頬に触れるとそのぬくもりに心臓が強く跳ねた。
だけどすぐに離して自分自身に嘲笑を漏らしベッドからゆっくりと離れる。
「・・・・・どうか・・してる」
自分を詰り今も明るい部屋の方に視線を移すと立ち止ることなく歩きだし。
その身を明かりの下に出せば振り返る事なく扉を閉め、無意味に明るかった部屋にも夜の帳を降ろし自室に戻った。
書類をデスクに雑に放り投げるとその下敷きになった物に視線が移り眉を寄せる。
「・・・面倒だな」
綺麗な装丁のお見合い写真の数枚。
どれも同じように微笑む女の写真を雑に手にして再度確認するように眺めてみる。
何度見ても・・・・・嘘くさい。
どんなに化粧でその美しさを作ったところで心が変わるわけでもない。
そして見つめる名前は良家と言われる資産家の名前の数々。
向こうの目的だって一緒。
ただ・・・・私利私欲な契約の為の婚姻。
「【愛】なんてものとは・・・・程遠いんだよ・・・」
まるでさっきの四季の言葉に反論するようにそれを口にして写真を床に落とすと、どうでもいいと寝室に向かった。