暴君と魔女
「んんっ、おいひいれすぅ~」
「物含みながら喋んじゃねぇよ馬鹿女」
オフィスのテーブルいっぱいに並んだ食べ物を次から次へと口に運んで飲み込んでいく女に、頬杖をつきながら呆れた視線を送ってしまう。
今時腹へって行き倒れって・・・。
相当空腹だったらしい彼女の身なりは決してみすぼらしいわけじゃない。
ホームレスの様な雰囲気はまるで無いというのに行き倒れ。
そんなよく分からない疑問から普段は他人に興味も、それについての質問すらしない俺が声をかけてしまった。
「お前・・・、ロスで何してるんだ?」
「・・・・・えっと、3日前くらいまでは占い師を・・・」
「3日・・・前?しかも・・・何て不安定な職を・・・、あっ、でもお前には天職か?」
「いや・・・それが・・・・」
さっきの唯一のこの女の奇跡的長所を思い出して突いてみると、口の端に食べカスを付けた女が苦笑いで視線を逸らす。
それに対しても軽く苛立って、こっちも行儀悪く軽くテーブルを組んでいた足で蹴ってしまった。
ガンッと軽く振動したテーブルにビクリと身を縮めた女ににっこりと微笑んで言葉の続きを要求する。
「いちいち濁してんじゃねーよ。俺は忙しい時間割いてお前の身の上話に興味出してやってるんだよ」
「そ、それはありがた迷惑な・・・・」
「・・・・・・今食った物の代金請求してやろうか?」
「う、占い当たらなくて廃業したんですぅ」
「あっ?」
そう言ってシュンとする姿に疑問を返すと、俺の目をそっと見つめた彼女が事の詳細を説明しだした。
「・・・・私、見える人は見えるんです。はっきりでも、うっすらでも・・・」
「でも、見えないやつは全く見えないって事か?」
「・・・はい。だから・・・占い業は向かず・・・しかも場所代も払えなくて無一文・・・・・」
「・・・・3日前から?」
「・・・はい。・・あっ、でもでも、今夜からちゃんとした稼ぎが」
「今【夜】?」
引きつった顔でどうも嫌な予感がする言葉を確認してしまう。
なのに目の前の女は最後のサンドイッチを口に放り込むとにっこりと微笑み自慢気にそれを口にした。