暴君と魔女
「はい、困ってたら勧誘されて、今夜からまさに身を削って働こうかと」
「変な風に身を削ろうとしてんじゃねぇよ・・・・。いや、もしかして仕事にしたいくらい好きモノかお前・・・」
こんな抜けてそうな奴が?
いや、脱いだら乱れる派か?
と、疑わしい視線を目を細めて送ってみると、それを知ってか知らずか屈託のない笑みで衝撃的な言葉を口にする彼女。
「あっ、セックスは未経験なんですけど~、初物はいい値がつくって・・・」
「どこの花魁だよお前・・・、馬鹿だ馬鹿だと罵ってきたが、救いようのない大馬鹿女だったな・・・」
呆れたように【馬鹿】を連呼すれば、ここにきて形ばかりにムッとした彼女が勢い任せに立ちあがって俺を指さしてくる。
それを特に動揺するでもなく頬杖をつきながら見上げてしまう。
だって・・・・何だよその子供が「怒ってます!」って宣言しているような表現は・・・。
「ば、馬鹿馬鹿言いますけど、私コレでもママしてるんですよ!!」
そう言って胸に手を置いて勝ち誇った様に見降ろす女に、さすがに頭が混乱して疑問を浮かべる。
あれ?さっき処女って暴露してたよなこの女・・・。
『ママ』って・・・・何だ?飲み屋?まさかな・・・。
頭の中の自問自答を程々に、溜め息をつくと声を響かせる。
「・・・・お前、子供いるのか?」
「あっ、はい、まぁ・・・」
「未経験って言ってなかったか?」
「そこは話すと長い事情が・・・・」
「簡潔に15字以内に収めて話せ」
「・・・っ結婚予定だった人の連れ子です」
「おお、やればできるな15字以内だ」
自分の指を折って言われた言葉を数えて馬鹿にする。
なのに何故かうまくまとめられたと嬉々としている女に呆れた。
しかし・・・何故連れ子の面倒をお前が見ている。
「無一文ならその男に泣きつけよ」
「はぁ、それが・・・・」
そこまで言って言葉を濁す彼女。
またこいつは・・・学習能力が無いのか?と苛立ってテーブルを再び揺らす。
あまりに今まで馬鹿な発言ばかりだったから気づくのが遅れた。
言葉を濁した彼女がここにきて本気で複雑に表情を歪めていた事に。
気がついた時にはあの無気力な笑顔を俺に向けて言葉を口にしたんだ。