海くんがわたしを好きだなんてそんなことあるわけない。
お願い、海くん。
はやくここから立ち去ってーー。
「折山さん......、
......起きないで」
囁くような声。
切なく、甘い、鼓膜を震わす声。
...そっと彼の手のひらが、わたしの頭を優しく撫でた。
まるで壊れ物を扱うかのように、優しく、優しく。
海くんの手のひらは......
こんなにも、優しくて、温かくて、柔らかかったの?
「......ーー律花」
小さく小さく。
だけどはっきりと。
彼はわたしの名を、甘い甘い声で奏でたーー。
彼が書道室を後にしたのは、その1分後のこと。
わたしは胸の高鳴りが止まらなくて、
頭のなかは海くんの声でいっぱいになっていた。