海くんがわたしを好きだなんてそんなことあるわけない。
俺と折山さんは席が近くなることもなく、班が一緒になることもなく、
一度もまともに話すことがないまま月日は過ぎていった。
話してみたいな、という感情はあったが、行動に移すほどの気持ちではなかった。
季節は秋と冬のあいだ。
だんだんと寒くなってきている10月半ばを迎えていた。
昼休み。
俺は社会科の先生に提出するものがあり、校舎の移動をしていた。
社会科室の隣にあるのが、
音楽準備室だった。
「失礼しました」と社会科室を出ると、ちょうど入れ替わるように音楽準備室に入っていった人物がいた。
......あ、折山さんの年上の彼氏だ。
一瞬視界に入っただけなのに、そう容易に判断できてしまった。
男の名前は榊原というらしい。
そんなこと把握しなくてもいいのに、俺はなぜか知っていた。