海くんがわたしを好きだなんてそんなことあるわけない。
海くんの忘れ物


「……さん」


数日後の古典の時間のこと。


わたしは集中して先生の話を聞いてノートをとっている最中だ。


日本語なのに日本語じゃないみたいな、古典ってむずかしい。


「……折山さん」


集中しすぎて彼の声が聞こえなかったのか、

彼の声が小さすぎて聞こえなかったのか。


寝ていたはずの海くんが、突然こちらを向いて話しかけてきた。


海くんが隣の席になってから、彼から話しかけてきたのはこれが初めてで一瞬びっくりしつつもシャーペンを握る手を止めて彼のほうへ顔を向けた。


「どうしたの?」


「辞書、家に忘れたから貸してほしい」


海くんはどうやら古典の辞書を忘れたみたい。


古典の先生はいつも出席番号順に生徒を当てていくのだが、もうすぐ海くんの番のようだ。


いくら頭の良い海くんでも、古典単語をすべて記憶していることはないだろう。

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