海くんがわたしを好きだなんてそんなことあるわけない。
「はい、どうぞ」
わたしはそっと手元にある辞書を手渡した。
「ありがとう」
海くんは控えめにそう言って両手で辞書を受け取った。
両手で受け取ったことに少し驚き。
めっちゃ礼儀正しい。
わたし、片手で渡しちゃったよ。
海くんわたしのこと“折山さん”ってさん付けで呼んでるし……せっかく隣の席になれたのに、かなり距離を感じるな。
他の男子みたいに、気軽に“折山”でいいのにな。
他の女の子のこと、呼び捨てで呼んでるの聞いたことあるし。
今まで話したことなかったし、席が近くなることもなかったから他人行儀になるのは当たり前かぁ。
というか、海くん基本的に女の子と話してないし、そんな気にする必要なんてないよね。
海くんはペラペラと辞書をめくっていて、
先生の質問にも完璧に答えられていた。