海くんがわたしを好きだなんてそんなことあるわけない。
「辞書かしてくんね?古典の!」
そう言いながら海くんのロッカーに近づくのは隣のクラスの中村斗真(なかむらとうま)くん。
彼とは去年同じクラスだったし、話したこともある。
中村くんと海くんは同じ中学で仲がいいらしい。
中村くんはたまにこうして海くんのもとへと物を借りたりおしゃべりしにやってくる。
「海、ロッカーに辞書ねーぞ?忘れたのか?」
中村くんは海くんのロッカーをあさりながらそう言った。
海くんは古典の辞書を家に忘れたからないことをわたしは知っている。
「ロッカーじゃなくて、こっちにある」
海くんは牛乳パック片手に今いる場所からこちらにやってきて机の中から古典の辞書を取り出して、近づいてきた中村くんに片手で手渡した。
すぐ近くにふたりが立っている。
「......?」
「どしたの?律花」
「あ、ううん、なんでもない」
海くん、さっきの時間、辞書忘れたって言ってなかったっけ……?
牛乳をじゅるると吸いながら、わたしの中に疑問が生まれた。