海くんがわたしを好きだなんてそんなことあるわけない。


チャイムが鳴るまで......残り3分。


後ろを振り返ると、クラスメイトはすでに理科実験室に移動していて、教室に残っているのは......わたしと海くんの二人きりになっていた。


......こうしてわざわざ、話しかけてくれた。


先に行かず、わたしの様子に気づいてくれた。


......海くん、わたしにそんなに優しくするわけを教えて......?


わたしは「ううん、大丈夫」とだけ言って、机の上に置いてある理科の教科書とノートのもとへ。


だけど、その2冊を手に取る前に......机の横にかけてある紙袋から、カップのガトーショコラを取り出して......。


「...海くん。バレンタインデー、作ってきたから...食べて」


わたしはスッと彼に差し出した......。


海くんはほんの少しだけ目を丸くしてガトーショコラを見た。


...海くんに食べてほしい...。


そしてなにより......受け取ってほしい。


海くんーー。


「......ごめん。他の人に...あげて」


返ってきたのは......そんな言葉。


そして彼は、教室を後にしたーー。


わたしは腕を引っ込めたあと...手にぎゅっと力が入った。


変形するガトーショコラ。


「......っ......」


“好きな子のチョコしか受け取らない”ーー


ーーほらね。


海くんがわたしを好きだなんて


そんなことあるわけなかった。


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