【完】キミさえいれば、なにもいらない。

その日の放課後、いつものように家に帰ると、玄関の鍵が開きっぱなしになっていた。


「……あれ?」


もしかして、と思いながらそのままドアを開け、中に入る。


「ただいまー」


小さな声でつぶやいたから、もちろん返事はなかったけれど、お兄ちゃんが家にいることだけはすぐにわかった。


先に帰ってたんだ。


「家にいても鍵はちゃんと閉めなさい」って親に言われてるのに、面倒くさがりなお兄ちゃんはいつも閉め忘れちゃうから。もうちょっと用心してほしいんだけどな。


玄関には男物のローファーが一足と、その隣に女物のローファーがきれいに揃えられて並んでいる。


私はそれを見て、思わず苦笑いした。


……あぁ、またお兄ちゃんたら女の子連れ込んでるんだ。


まぁこれもいつものことで、今さら驚くことではないけれど。


家にいてもなんとなくくつろげないから、正直なところ少し複雑だ。


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