【完】キミさえいれば、なにもいらない。
仕方なくこの場で済ませてしまおうと思い、ローテーブルの上に数学の教科書とノートを広げる。
黙々とひたすら問題を解いていく。
もとから勉強は割と好きなほうだから、こうして宿題をこなしたりするのはそんなに苦ではない。
集中してやったら意外とすぐに終わったので、その後は読みかけの恋愛小説をカバンから取り出して読んでいた。
私にとって、読書の時間は唯一の至福の時だ。
本の世界に浸っていると、嫌なことも全部忘れられる気がするから。
だけど、ちょうどいい場面に差し掛かったところで、階段のほうから大きな笑い声が響いてきて。
「はははっ、そんな可愛いこと言われたら俺、帰したくなくなっちゃうんだけど」
「やーん、エミリも帰りたくなーい」
その声を聞いた瞬間、私はパタッと本を閉じた。
……お兄ちゃんだ。やっぱり二階に女の子といたんだ。
ほんとに相変わらずだなぁ。