【完】キミさえいれば、なにもいらない。
「ありがとう。実はこのバレッタ、お母さんの手作りなの」


私がそう告げると、驚いたように目を丸くする一ノ瀬くん。


「えっ、手作り?これが?」


「そう」


「へぇー、すげぇ。雪菜のお母さんって、器用なんだな」


「うん。ハンドメイドが好きで、時々作ってくれるの」


「そうなんだ。いいお母さんじゃん。それ、雪菜にすごく似合ってる」


そんなふうに素直に褒められると、やっぱり照れる。


「あ、ありがとう」


下を向きながら小声でお礼を言ったら、一ノ瀬くんはいつものように前の席に腰掛けた。


そして思いついたように、パチンと手を叩く。


「あ、そうそう。俺、教科書忘れたから雪菜に借りようと思ってたんだった!」


「え、教科書?何の?」


「数学なんだけど。今日持ってる?」


「も、持ってるけど……」


机の引き出しを覗き込んで、数学の教科書を探す私。


教科書なんて、わざわざ私に借りなくても、他に貸してくれる友達がたくさんいそうなのに。


なんて思いながらも、取り出して彼に渡す。


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