【完】キミさえいれば、なにもいらない。
立ち止まって、バレッタとヘアゴムを外し、髪を結びなおす。


簡単だから、そんなに手間はかからないし、すぐにできる。


だけどそこで、仕上げにバレッタで髪を留めようと思ったところ、向こう側から中学生の男の子の集団がワイワイはしゃぎながら走ってくるのが見えて。


すれ違いざまその中の一人が、私の肩にドンと勢いよくぶつかってきた。


「きゃっ!」


その瞬間、バレッタがポロっと手から落っこちる。


え、ウソ……。


「あ、すんません!」


ぶつかった男の子はすぐに謝ると、そのまま仲間と共に走り去っていく。


私は慌ててバレッタを拾おうとしたけれど、なぜか足元を探しても、どこにも見当たらない。


すぐ隣には、狭い用水路のような溝があって、そこには水が溜まっている。


やだ。もしかして、ここに落としちゃったのかな?


でも、今のでそんなに遠くまで飛ばされるなんてことはないだろうし、落ちたとしたら、この溝の中しか考えられないよね……。


そう思ったら、一気に顔が青ざめた。


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