【完】キミさえいれば、なにもいらない。
「はい。とりあえずこれでいいかな」


私が手当てを終えて声をかけると、彼は照れくさそうに礼を言った。


「あぁ、ありがと」


「帰ったら、ちゃんと消毒してね。あと、すぐに着替えてね。風邪ひいちゃうから」


私がそう言うと、ポカンとした表情でこちらを見てくる彼。


こういう時、ついつい世話焼きな性格が出てしまうなと思う。


どうしても、ほっとけなくなって、余計な手出しをしてしまうというか。


よくお兄ちゃんに「お前は母親か」って突っ込まれたりするけど、確かにそれは私の悪い癖だと思う。


もしかしたら、一ノ瀬くんも戸惑ったのかな。


なんて思いながら彼を見つめ返すと、一ノ瀬くんは静かに口を開く。


「雪菜ってやっぱ、優しいよな」


「えっ……」


思いがけない言葉にドキッとした。


「俺のこと、ちゃんと心配してくれるし。こうやって、わざわざ手当てとかもしてくれて。ほんと面倒見がいいっつーか」


感心したように語る一ノ瀬くん。


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