【完】キミさえいれば、なにもいらない。
「……っ!」
そこで突然、璃子が口にしたその名前に反応するかのように、ドクンと心臓が鈍い音を立てて飛び跳ねた。
「前はたまにあげたりしてたじゃん」
途端に胸の奥がずしんと重たくなる。
だけど、必死でそれを顔に出さないように取り繕う私。
「なっ……。あれはお兄ちゃんにあげるついでにあげただけで……。それに、陸斗(りくと)先輩は今彼女いるから、そんなことしたらダメでしょ」
「あーそっかぁ。彼女いるんだった」
「そ、そんなことより、璃子は誰かにあげないの?」
慌てて話そらす。
「え、私?うーん、そうだなぁ。綺麗に作れたら、宮城(みやぎ)先生にでもあげよっかな」
「宮城先生ねぇ」
ちなみに宮城先生というのは、うちの学年で人気の数学教師だ。
イケメンなうえにまだ20代で独身だから、女子生徒にすごくモテるし、ファンが多い。
璃子もその一人みたいだし。