【完】キミさえいれば、なにもいらない。
思いがけないことを聞かれて、言葉に詰まってしまった。


ど、どうしよう。なんで……。


ここ最近ずっと彼のことを避けていたのに、まさか、こんなふうに誘われるなんて思ってもみなかった。


本当なら嬉しいはずなのに、今は喜べない。


これも全部、私を口説くために誘ってるだけなのかなって、そんなふうに思えてしまって。


彼の言葉の何もかもが、信じられない。


「え、えっと……ごめん。明日は、友達とまわる約束してるから……」


私が断りを入れると、彼方くんはあからさまに残念そうな顔をする。


「……そっか」


「ご、ごめんね」


「ううん、残念だけど、約束してるなら仕方ないや。無理いってごめん」


するとそこで彼はさらに、思いついたように言う。


「あ、それじゃせっかくだから、一緒に帰ろ。最近全然一緒に帰れてなかったし」


いつもの明るい声。いつもの彼。


だけど私はもう、これ以上そんな彼と顔を合わせているのが耐えられなくて。


何でもないフリをして一緒に帰るだなんて、とてもできそうになくて。


そのまま彼方くんに背を向けると、下駄箱から靴を取り出した。



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