【完】キミさえいれば、なにもいらない。
「うーん、今年はべつに見にいかなくていいよ。これから私自分のシフト時間だし。それに、お兄ちゃんの歌はいつも家で嫌というほど聞かされてるから、もうお腹いっぱい」


そんなふうに話したら、璃子はアハハと笑っていた。


「そっか~。まぁ確かに、シフトと被ってたら見に行けないか。私も見たかったけど無理だな~、残念。でも、雪菜ももちろん一組の劇は見に行くよね?」


「えっ」


そこでちょうど彼方くんのクラスの劇の話題になり、またしてもドキッとしてしまった私。


そう言えば私、前に彼方くんと約束したんだっけ。


「絶対見に行くね」って。


でも……。


「う、うーん……」


煮え切らない返事をすると、璃子が不思議そうな顔でこちらを見てくる。


どうしよう。本当なら見に行く予定だったけど、今さら彼のステージを見たら、余計に辛くなってしまいそうで。


昨日のことを思い出すたび、胸が締め付けられそうになる。


彼方くんのことをハッキリ拒絶して、再びハッキリ振ってしまったけど、なんだかこれじゃ私、まるで後悔してるみたいだよね……。


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