【完】キミさえいれば、なにもいらない。
「だ、だって……鈴森さんの言うとおりだと思ったから。彼方くんは、誰にも本気にならないって」


「はっ?」


「彼は私のことも結局、遊びだと思ってたみたいだし。だからもう、関わるのはやめようって……」


私がそう話すと、鈴森さんはひどく驚いたような顔をしていた。


「な、何言ってるの……?それってつまり、彼方の気持ちが信じられないってこと?」


「……うん」


私がコクリと頷くと、ますます大きく目を見開く彼女。


「へ、へぇ……。市ノ瀬さんは、彼方の言葉より、私の言うことを信じるんだね」


「え?」


「彼方がほんとに気まぐれで自分に構ってたと思ってるんだ。お祭りに一緒に行ったり、散々思わせぶりなことしておいて、今さら」


そんなふうに言われて、ひどく戸惑う。


どういうこと?


前に私に言ってきたことと話が違って、彼女の言いたいことがよくわからない。


それに、鈴森さんだって、彼方くんはチャラ男で誰にも本気にならないと思ってるんじゃないの?


「だ、だって……」


「信じられない。見損なった」


鈴森さんが下を向いてボソッと低い声で呟く。そして、少し黙ったのち、再び顔を上げると悔しそうな表情でこちらを見ながらこう言った。


「私、せっかく彼方の幸せを思って、あきらめようと思ってたのに……。前は悔しくてついあんな嫌味言っちゃったけど、ほんとは私、彼方は、あなたのことだけは本気だと思ってたのに!!」


えっ……?



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