【完】キミさえいれば、なにもいらない。
するとその瞬間、どこからか大きな音でスマホの着信音が鳴るのが聞こえてきて。


ハッとした男が手を止め、音のするほうを振り返ったら、その着信音はすぐ後ろにいた彼の友達のものだったらしく、その人がすぐ電話に出た。


「……あ、先輩っ!はい、はい……。す、すんませんっ!了解っす!今すぐ行きます!!」


慌てた様子で電話を切ると、その友達がこちらに駆け寄ってきて、男の腕をギュッと掴む。


「おい吉田、やべぇぞ。今先輩から電話来て、お前ら何してんだ早く来いってキレてる」


「ゲッ、マジかよっ……」


その吉田という男は、それを聞いた途端顔色を変えて急に焦り始める。


するとその隙に……といわんばかりに、彼方くんが私の腕をギュッと掴むと、その場から私を連れ去るように走り出した。


「雪菜、逃げるぞ!」


「えっ……!」


彼に言われるがまま、そのあとをついて自分も走る。


なんだか嬉しいような、泣きたくなるような、何とも言えない複雑な気持ちだった。


彼に手を引かれながら、色々と思いを巡らせる。


ねぇ、どうしてなんだろう。


どうして彼はこんなふうに私を助けてくれたりするんだろう。


こんなことされたら、やっぱり勘違いしてしまいそうになるよ。


彼は本当に、私のことが好きなんじゃないかって……。


だけど、あの時の彼の言葉を思い出すと、信じられないと思ってしまう。


どうしたらいいのかな。


彼方くんは、本当は、私のことをどう思ってるの?


彼の本音が知りたい。


彼の口からちゃんと、本当のことを聞きたいよ……。



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