【完】キミさえいれば、なにもいらない。
そのまま遠くへ逃げるようにしばらく二人で走って、人けのない校舎の端まで来たところで、彼方くんが足を止めた。


「はぁ、はぁ……」


私が胸に手を当て呼吸を整えていたら、彼方くんが声をかけてくる。


「ごめんな、走らせちゃって。大丈夫か?」


「だ、大丈夫。ありがとう」


顔を上げ、お礼を言ったら、彼は心配そうに私の顔を覗き込んできた。


「ほんとに?さっきの奴に変なことされなかった?」


「うん。何もされてないよ」


「そっか。ならよかった」


私が頷くと、ホッとしたように微笑む彼。


その瞬間目が合って、思わずドキッとする。


だけど同時にすごく切ない気持ちになってしまう。


こうして見ると、やっぱり彼は何も変わらないから。


いつも通り優しくて、温かくて、まっすぐで。いつだって、私のためにすごく一生懸命になってくれて。


これが全部ウソの姿で、本性はまるで別人だなんて、そんなふうにはとても思えない。


信じられないよ……。



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