【完】キミさえいれば、なにもいらない。
そのまま黙り込んでしまった私に、彼方くんが不思議そうな顔で問いかけてくる。


「雪菜……?どうした?」


私はどうしようか迷ったけれど、ここでまた何も言わず逃げてしまったらいけないような気がして、おそるおそる口を開いた。


「ねぇ。どうして……」


思わず声が震える。


「どうしてそんなに、優しくするの……?」


私昨日、「構わないで」って言ったばかりなのに。


裏では私のこと、あんなふうに言ってたくせに。


私のこと、本気じゃないんでしょ?遊びだったんでしょ。


だったら、お願いだからこれ以上期待させないでよ。


私が問いかけると、彼方くんは真顔で私の顔を見つめながらハッキリとこう言った。


「そりゃもちろん、雪菜のことが好きだからに決まってるだろ」


当たり前のように口にする彼。


だけどそんなふうに言われると、ますます胸が苦しくなる。


もしこれが私を口説くためのウソなんだったら、こんなふうに平気な顔でウソを付けてしまう彼が、理解できない。


「……ウソつき」


私がボソッとそう呟いて彼方くんの顔を見上げると、驚いたのか、ギョッとしたように目を見開く彼。


「えっ!?」


「私のことなんて、本気じゃないくせに……っ」


言いながら、目に涙がどんどんあふれてくる。


同時に蓋をしていたはずの気持ちが一気にあふれ出してきて。


「ウソだったんでしょ、全部。私、せっかく信じてみようと思ったのに……。彼方くんなら、信じてみてもいいかなって思ってたのにっ……」



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