【完】キミさえいれば、なにもいらない。
その音がやけに大きくて、思わず二人ともそちらに意識がいく。


「本日14時より、2年1組の演劇『王子の初恋』が体育館にて上演されます。出演者の方は、今すぐ体育館にお集まりください」


しかもそれは、ちょうど彼方くんが出演する予定の劇の招集を告げる内容で。


それを聞いた彼は、パッとポケットからスマホを取り出すと、すぐさま時間を確認した。


「やべ、もうそんな時間か……。あっ」


そして急に何かひらめいたように 同じポケットからチラシのようなものを取り出して。


「雪菜、これ」


「え?」


見るとそれは、彼方くんのクラスの劇の宣伝用のビラのよう。


「俺が今から出る劇なんだけど、絶対見に来て。このあと体育館でやるから」


「……なっ」


いきなり真顔で劇の宣伝をされて戸惑う私。


ちょっと待って。どうしたの急に。


だって今、そんな話をしていたわけじゃないのに。もっと大事な話をしていたはずなのに。


それがなんで劇の話になっちゃうの?


「い、嫌っ。行かないっ」


だから私は少しムッとした顔で断った。


すると彼方くんは、そんな私の手を両手でぎゅっと握ると真剣な表情で。


「頼むから、絶対に来て。雪菜に見てほしいんだ。最後まで」


「……っ。で、でも……」


「そこで全部証明する」


「えっ……?」



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