【完】キミさえいれば、なにもいらない。
そしたら今度は急にどこからか女子たちの甲高い声が聞こえてきて。


何かと思ってその声のするほうに目をやったら、なんとそこには、ついさっきまで話題に上がっていたあの一ノ瀬くんの姿があった。


噂をすれば……。うちのクラスに来るなんて、珍しいな。


璃子が言っていた通り、その口元には絆創膏が一枚貼られている。


一ノ瀬くんは教室全体をキョロキョロと見回したあと、なぜか私のいるほうに目をやる。


そして、何を思ったのか、そのままこちらに向かってスタスタと歩いてきた。


え、ウソ。なんで……。


私の席の前までやって来ると、片手をズボン横のポケットに突っ込み、そこから何かを取り出す彼。


それは、私が昨日彼に貸してあげたハンカチだった。


「昨日はありがとな。これ、洗ったから返す」


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