【完】キミさえいれば、なにもいらない。
困ったように笑いながらうなずいたら、そこで璃子が急に立ち止まって再び甲高い声を上げた。
「って、あーっ!噂をすれば、あそこにリアル王子様はっけーん!」
「へっ?」
今、なんて言った?リアル王子様?
私が何のことだかわからずポカンとしていると、璃子が中庭にいる派手な男女の集団を指差してみせる。
「ほら、見てよ。あそこに1組の彼方(かなた)くんがいるよっ。まさにリアル王子って感じ!それに私、彼方くんって絶対朝川リョウに似てると思うんだよね~」
「えぇっ!そう?」
彼女が指差した先にいたのは、うちの学年で女子に一番人気と噂のイケメン男子、一ノ瀬彼方(いちのせ かなた)くん。
偶然にも私と名字が漢字違いで一緒なんだけど、同じクラスになったこともないし、話したことは一度もなくて、ただ名前と顔だけ知っているみたいな存在だ。
確かに長身でスタイルがよく、中性的で整った顔をしているから、王子様って言葉が似合わなくもない。