黒犬



家に帰った俺は父の使っていた大太刀を手にし走っていた。

「ひぃ…」

「鬼…
黒鬼……」








「鬼?
どう見たって観音様だろ。」


ニコォと笑って両手を胸の前で合わせる





「な?」















「ぎゃーー」



汚い悲鳴が遠くで聞こえる
世界が真っ赤だ


「助けてくれ…」

無い下半身
胴を引きずり逃げ惑う男
震えて動けない女

「助けてくれ?
ここの長なら最後くらいカッコよく








死ねよ。」











グサッ





「あなだぁぁあああ。」


女が叫んだ








「うるせえよ。」


ガシュッ

喉を搔き切る









ーぁぁぁあああんぁぁあああああんああぁぁん



奥の部屋から聞こえた泣き声
赤ん坊か?服を掴んで顔を見る

小せえ

目が合うと一度だけ泣き止んでまた泣いた
「うるせえ。」

胸ポケットに忍ばせた短刀を握り首元に当てる



ー軽く引けばこいつは死ぬ



手は動かなかった
代わりに背中に小さな傷を付けておいた

彼を元いた場所へ戻しあたりを探った


母子手帳か…


中を開く
名前の欄はまだ空欄だった

まだ生まれて数日しか経ってない
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