3月生まれの恋人〜first christmas〜
彼は、真っ直ぐにあたしを見下ろすと、拓海くんのそれと同じように、少しだけ首を傾けて微笑む
約束なんてしたっけ?って、一瞬考えたけど
そんな事より何より、寒い中、こうして待っていてくれたことが素直に嬉しい
『拓海にも渡したくないんだけど?
ゆづ先生。』
フードから伸びた蜂蜜色の髪が風に揺れる
『とりあえず寒いからメシでもどうですか?』
街中の家々に灯る温かな光
今夜は、誰もが人恋しくなるクリスマスイブ
じっと、彼を見上げてみる
『振られたばっかなのに・・・
もう、違う人にときめいちゃうようなあたしでもいいですか?』
あたしの台詞に、彼は大きく目を見開く
『それって、都合よく解釈しちゃっていい?』
ダウンのポケットに両手を突っ込んで立つ彼が
そっと左手を抜いて、あたしへと差し出す
『拓海くんと両天秤ですけど、それでよければ』
手袋のままの右手を延ばすと
こないだと同じように、一瞬早く彼に手を取られ、きつく握られて
『やつには渡さないし。』
彼がお日様のような笑顔であたしを見下ろす
あたしはそんな彼を見上げて笑った。