冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
商人たちの威勢のいい声が飛び交う中を歩き続け、不意にライラは大通りから一本奥に入った細い道に入っていった。

 急に寂れた雰囲気になり、セシリアはわずかに警戒心を強める。しかしライラは迷いなく前へと進んだ。

「ここです」

 ある店の前でライラは足を止め、セシリアに声をかける。古めかしいレンガ造りの建物だった。くすんだ色の壁の間から雑草類が顔を出していた。

「来たことがあるんですか?」

「はい。孤児院でいた頃、庭で薬草などを育てこちらに売りに来ていたんです」

 ライラは懐かしみながらもドアに一度目を向け、セシリアに視線を戻す。

「店の主人には、城仕えをしていると説明します。どうか私の嘘に付き合ってください」

 セシリアは目で静かに応えた。そしてライラは木製の扉をノックし建物の中に入る。

「こんにちは」

 入口は狭く、中は薄暗い。様々な薬草の香りが鼻を衝いたが、ライラは気にもせず奥へと声をかける。

「お客さんかい?」

 しゃがれた声の腰の曲がった老人がゆっくりとカウンターに姿を現した。右目にモノクルを装着し、ちりちりの白髪頭が目に入る。肌は黒くどちらかといえば細身だ。

「お久しぶりです、ディルク」

 ライラが声をかけると、老人の目がかっと大きく見開く。顔に血の気が通り、急に興奮気味になった。

「ライラ? ライラじゃないか!  久しぶりだね。グナーデンハオスを出て養女になったと聞いたが元気にしていたかい?」

「はい。今は色々あって城仕えをしているんです。彼女は一緒に働いている仲間で……」

「こんにちは」

 ぎこちなく説明すると、セシリアは空気を読んで挨拶をした。ディルクはちらりとセシリアを一瞥したが、すぐにライラに視線を戻す。
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