冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
少し離れた場所からライラはその様子を見守る。なにを話しているのかは聞こえないが、懐かしいあの場所に飛び込んでいきたい衝動に駆られるのをぐっと堪えた。

「みんな、元気そうでよかったです」

「あの、これ以上は……」

「わかっています。姿を見せるのも、声もかけるのもしません」

 ぎこちなくたしなめようとするセシリアにライラはきっぱりと答えた。声には固い決意とほんの少しの寂しさが混じる。

 きっと彼らもシスターも事情を話せば、またライラを喜んで受け入れるだろう。しかしフューリエンとして自分の噂が立ってしまった以上、関わるのは危険だ。

「いきましょうか。約束の時間もありますし、お付き合いくださってありがとうございます」

 にこやかにセシリアに礼を告げると踵を返し、ライラは後ろ髪を引かれながらもその場から離れた。

 太陽が西に傾き始めた頃、広場の決めていた店の前にはルディガーの姿が先にあった。二人組の若い女性に声をかけられ笑顔で対応している。

 しかしライラたちに気づくと視線を寄越し、手を上げた。自然と彼女たちの目もこちらを向く。ライラを庇うようにここでセシリアは前に出た。

 案の定、女性たちからは不服そうな眼差しを注がれたが、セシリアは涼しい顔でルディガーに近づく。

「ごめんね、彼女が来たから。また楽しい話を聞かせてくれると嬉しいな」

 不満げながらも渋々女性たちが去ってからセシリアは上官に話を振った。
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