冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
自室で私服から団服に着替えたルディガーは一直線にアードラーの部屋に向かった。自分に宛がわれた部屋ではない、同じ役職に就くもうひとりの男の部屋だ。

「戻ったぞ」

 形だけのノックをして、返事を待たず中に足を踏み入れる。机に座り書類に目を通していたスヴェンは、ルディガーの態度をさして気にもせず顔を上げた。

「大きな問題はなかったか?」

「問題もトラブルも特にはなし。ただ、強いて言えばお前だよ、お前!」

「なんだ?」

 珍しくルディガーが投げやりな口調になる。スヴェンの元まで長い足を動かしさっさと距離を縮めた。机を挟んで正面に立ち、あれこれ言おうとしたが、すんでのところでやめる。

 自分に言い聞かせるかのように軽く首を振った。

「いや、いい。スルーされたら、されたでそこまでだしな」

「だから、なんなんだ」

 事態が飲み込めないスヴェンが不機嫌な声で聞いた。ルディガーは頭に手を添え、息を吐く。

「とりあえずライラの反応次第だと言っておく」

 ますます意味が理解できない。下から睨みを利かせたが、スヴェンが口を開く前にルディガーが頭から手を離して真面目な面持ちで続けた。

「セシリアからの話だ。寄った店は薬種店のみだが、その後に彼女、グナーデンハオスに行ったらしい」

「それは」

「接触はもちろんしていない。遠巻きに見ていただけだ。一応、伝えておく」

 スヴェンは口元に手をやりしばし思案する。しかし、今はとにかく目の前の仕事に集中しようと頭を切り替え話を振った。
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