冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
「こっちは、東側に位置する尖塔の部屋の鍵束がなくなっていると報告があった」

「尖塔の鍵? なんでまたあんなところが……ほとんど使っている部屋はないだろ」

「だから、妙なんだ」

 アルント城にはいくつもの尖塔があり、昔は敵襲に備えた見張り部屋として使われていた歴史もあったが、今はその役目はほとんど必要ない。

 日常的にあまり使われる部屋でもないが、定期的に掃除し見回りもしている。西と東に分かれて鍵をまとめて管理していたが、こんなことは初めてだ。

「誰か清掃担当の者が持っているんんじゃないか?」

 紛失は大きな問題だが、今すぐどうなるというものでもない。ルディガーの言い分も可能性としてないわけではない。とりあえずしばし様子見することになった。

「にしても、あいつが行きたかったのは薬種店だけだったのか」

 珍しくスヴェンから話題を戻すと、ルディガーが苦笑した。

「店主が昔からの知り合いだったらしい。にしても年頃の女性だし、もっと違うものを欲しがるのかと思えば……。彼女らしいと言えば、それまでだけどな」

 スヴェンは机に肘をつき顎に手を添え考えを巡らせる。その様子を見かねたルディガーが声をかけた。 

「気になるなら後は自分で彼女に聞けばいいだろ。奥さんなんだから」

 ルディガーの発言が耳を通り過ぎる。大きな問題もトラブルもなくライラの目的が達成できたのならかまわない。とくに本人から聞きたい話もない。

 しかし、どうしてかスヴェンの心にはなにかが引っかかっていて、不快感が胃を重たくする。そこでなんとなくライラの笑顔が頭に過ぎった。

 あれを見れば、少しは楽になるのか。彼女が嬉しそうに笑えば、幾分かこの気分は晴れる気がした。
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