冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
「やだ! スヴェンなんて嫌い。大っ嫌い!」

 まるで子どもの言い草。しかし思った以上にスヴェンはライラの言葉に動揺した。沈黙が二人を包む。

 ライラは大きく肩を揺らすと、自分の手をそっと口元に持っていった。

「なにも、こんな手の込んだからかい方をしなくても……」

「そのつもりはない」

 ひとり言で呟いた結論は瞬時に否定される。ライラはおずおずと首を動かしてスヴェンを仰ぎ見た。

「なら、なんで?」

「言っただろ、したくなったんだ」

 答えになっていない気がして、さらに尋ねようとした。けれどそれはスヴェンがライラを抱きしめたことで阻まれる。

 ずるい。いつも人の気持ちをかき乱してばかりで、スヴェンはなにも教えてくれない。

 けれど聞く勇気もない。その答えを聞いたところで自分たちの関係は所詮、かりそめのものだ。

 逞しい腕が回され、厚い胸板にもたれかかっていると体格差もよくわかる。こうしているとスヴェンはやっぱり大人の男で変に意識すると、心臓が再び暴れ出しそうだった。

 ライラはわざとらしく違う話題を振ってみる。

「これ、エルンスト元帥やセシリアさんにも振る舞ってもいいかな?」

「なんだ? 俺で試したのか?」

 その反応にライラは顔を上げて抗議した。

「違うよ。スヴェンに一番に飲んでほしかったの!」

 思わず至近距離で視線が交わり、ライラはとっさにスヴェンの胸に顔をうずめる。
< 138 / 212 >

この作品をシェア

pagetop