冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
ファーガンの屋敷にいたときもずっと部屋の中だけで生活してきた。だからライラはできれば広い外を見て、澄んだ空気に触れたいと願ってしまう。

 今日は雲に太陽が隠れているせいか、日中でもあまり気温は高くなく薄暗い。中庭は建物に囲まれているおかげで余計にだ。

 けれどライラの心は嬉しさで弾んでいた。

 中庭には様々な植物が植えられ、季節的に彩は寂しいが緑が生い茂っている。井戸や小さな池など貯水設備もあり、ライラは物珍しそうに顔を動かしてそれらを見つめた。

 そして庭の一角に設置されたガゼボのような屋根があるところに注意がいく。あきらかに観賞用ではなく密集して植物が植えられているのを見つけた。

 今までずっとスヴェンのうしろが定位置だったライラだったが、ここに来て彼の前に立ち、興味深そうにそこへ近づいていった。

「ここ、なんですか?」

「薬草園だ。今は管理する者がいないから、荒れている」

 スヴェンの言葉を肯定するべく本来入り口部分となる箇所には、なにかの葉っぱが塞ぐように覆っていて長らく人の手が加わっていないのを物語っている。

「中に入ったりは、できないんでしょうか?」

 躊躇いがちにライラが尋ねるとスヴェンは煩わしそうな顔で入り口を覆う葉に手を伸ばした。払うように乱暴に端に寄せてスペースを空ける。

 古くなった木の枝がちぎれる音と共に入り口がこじんまりと中を覗かせた。

「あ、ありがとうございます」

 そこまでするスヴェンの行動がライラにとっては正直、意外だった。素直にお礼を告げると、忍び込むようにして薬草園に足を踏み入れる。
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