冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
「これで私は失礼します。今宵は初夜ですしね。どうぞ素敵な夜を」

 ライラの心をかき乱すには十分なほどの爆弾をさらりと落としてマーシャは部屋を後にした。重く感じるほどの静寂が部屋を包む。

 肩を抱いていた手がすっと離れ、触れられたところが空気に触れた。無意識にライラはその部分を手でさすると、どことなく熱が残っている気がした。

「俺はベッドは使わないからお前が使えばいい。休むなら早くしろ」

 ライラは今の状況に意識を向け直す。

「ですが」

「そういう話だっただろ」

 鬱陶しそうに言われ、ぐっと言葉を飲み込む。そもそもこの結婚は、ライラが夜をどう過ごすかという話だった。

 城に滞在中、夜間もずっとライラのために部屋の外に警護をつけるわけにもいかない。そうすれば人手もかかり、下手に注目を集め、憶測を呼び情報の漏えいにも繋がりかねない。

 とはいえ、アルント王国では婚姻関係のない男女が共に夜を過ごすことについて、一般的には推奨されていない。もちろん例外はあるのだが。

「バルシュハイト元帥はどうなさるんですか?」

「俺は元々あまり横にならない」

 別の角度から聞いてみるが素っ気なく返される。スヴェンがどうやって休むのか、ライはすぐに見当がついた。

「私がそちらのデュシェーズ・ブリゼを使わせてもらっては駄目ですか? 私なら横になれますし、十分な大きさなのですが」

 ライラはベッドの傍らに用意されている家具に目を遣った。ゆったりと座れそうなふたつの椅子の間には高さを揃えたオットマンが置いてある。

 あれらを組み合わせると長めのソファのようになり、足を伸ばして体を休める仕組みになっていた。
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