冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
「あちらを俺が使う」

「そんな」

 ライラはスヴェンに視線を戻し、じっと見据える。不満の色を隠すことなく顔に滲ませていた。

「私の意思を聞いてくれるんじゃなかったんですか?」

「すべては叶えてやれないって言っただろ」

 呆気なく返され、ライラは開いた口が塞がらなかった。なんだか上手く言いくるめられただけのような気がする。

 結局、自分の立場を慮れば意見するのは諦めるしかないのか。そんな思いを抱いていると、続けてスヴェンから紡がれた言葉にライラの心は大きく揺れた。

「夫の言うことは素直に聞いておくものだろ」

 そこに込められた感情を推し量ることはできない。ただ、いつもの刺々しさや威圧さは感じられなかった。

「……よく言いますよ。妻を名前で呼ぶこともしないのに」

 だからライラは思い切って軽口を叩いてみる。平然を装って返したものの、心臓は早鐘を打ちだしていた。

 スヴェンから自分たちが夫婦であると意識するような発言が飛び出すとは思ってもみなかった。

 スヴェンはなにも答えることなく、まっすぐにライラに歩み寄ってくる。これにはライラも面食らい、つい身を固くする。

 近づいて来る男を視界に捉えたままでいると、自然と顔は上を向く形になった。パーソナルスペースをとっくに超えた距離までふたりの間は縮まり、さすがにライラがなにかを口にしようとする。

 しかし、それはスヴェンがライラをひょいっと荷物のように抱えあげたことで阻まれた。
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