冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
「左目はどうかされたんですか?」

 尋ねる前にユルゲンから質問が飛ぶ。ライラの左目は長い前髪で隠すように覆われていた。この質問は想定内だ。今までにも散々あった。だからライラはさらっと切り返す。

「実は、幼い頃に病気で悪くしてしまいまして。すみません、お気になさらないでください」

「そうですか、これは失礼しました。お大事になさってください」

 予想通りの反応にライラはホッとする。たいていの人間はこうして、『気の毒なことを聞いてしまった』という顔をするのだ。おかげで必要以上に話題にされることもない。

 案の定、ユルゲンは話題を変えてきた。

「城での暮らしは退屈でしょう。彼は忙しいでしょうし、よろしければ、話し相手に立候補してもかまいませんか? 今度は花をお持ちしますよ。うちには立派な花園があるので」

 人のいい笑みを浮かべたユルゲンにライラは返事に窮す。気にかけてもらっているのは有り難いが自分で判断しかねる話だ。

「ユルゲン」

 そのとき聞き覚えのある声が耳に届く。見れば、スヴェンが険しい顔で従兄の名を呼び、大股で部屋の中に入ってきた。

「やぁ、スヴェン、久しぶり! 元気だったかい? 相変わらずアードラーとして忙しいのかな?」

「どういうつもりだ?」

 ふたりの声のトーンは真逆だった。楽しそうなユルゲンに対し、スヴェンは苛立ちを隠せないでいる。

「そんな怖い顔をしないでくれよ。君も水くさいな。結婚したなら教えてくれればいいものを。なに、従兄として君の奥さんに挨拶しようと思ってね」

「俺に断りもなく、勝手にこいつに近づくな」

「わー、すごい独占欲だね。意外だ。ベタ惚れなんだ」

 茶化して告げるにユルゲン、スヴェンはなにも言わず鋭い眼差しを向ける。ライラは成り行きを見守るしかできない。
< 52 / 212 >

この作品をシェア

pagetop