冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
スヴェンの視線を受け、ユルゲンは降参を示すかのごとく両手を軽く上げる。

「悪かった、今日はこれで失礼するよ。また改めてお祝いさせてくれ。ライラさんも突然、驚かせてしまったね」

「いえ……」

 突然話を振られ、ライラは短く否定するのが精いっぱいだった。ユルゲンが部屋を去った後は、まるで嵐が通り過ぎたかのような徒労感と静けさをもたらす。

「すみません、スヴェンさま」

 口火を切ったのは今まで黙っていたマーシャだった。どうして彼女が謝るのか理解できないライラに、マーシャ小さな声で説明した。

「スヴェンさまの許可がない者は、基本的にライラさまにお通ししないようにと仰せつかっていたので」

「そうなの?」

 ライラが尋ねたのはマーシャではなくスヴェンにだった。スヴェンは呆れた顔でライラに返す。

「お前、自分の立場をわかってるのか?」

「でも、彼はスヴェンの従兄なんでしょ?」

 とても従兄に対する態度とは思えなかったが。マーシャが無下にはできないのも無理はない。そもそも結婚すれば声をかけてくる者もいるはずだと言ったのはスヴェンの方だ。

 なにか思うところがあるのか、スヴェンは苦虫を噛み潰したような顔になった。

「とにかく、不必要に外部の者と接触するな」

 言い捨て、さっさと部屋を出て行こうとするスヴェンにライラが思い切って声をかける。

「スヴェン」

 名前を呼べば、スヴェンが一度ライラの方に振り向いた。漆黒の瞳に見つめられ、ライラは勢いにのって提案してみる。

「あの、お茶が入るんだけど、時間があるなら一緒に飲まない?」

 スヴェンの顔が訝し気なものになった。そこで怯むライラでも、もうない。
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