冷徹騎士団長は新妻への独占欲を隠せない
まるで魔法だ。それと同時に、お湯も淡い黄色に色づいていく。ふわふわとポットの中で泳ぐシュラーフがなんとも可愛らしい。

「面白いでしょ? シュラーフは別名『月変花』とも言うんですよ」

 月に変わる花。詩的な呼び名と、月という言葉にライラはますますシュラーフに親近感を湧かせた。

 ライラの反応に満足したようにマーシャは微笑み、ポットの蓋をする。二、三分蒸らせばシュラーフのハーブティーの完成だ。

 銀で縁取られた白いカップにできたてのハーブティーが注がれる。花の色よりも幾分かくすんではいるが、色も香りもしっかりと出ている。

 ライラは緊張しながらカップを持ち上げて口元に運んだ。鼻を掠める香りは、どこか薬っぽさが拭えず、これだけで味もなんとなく想像ができる。

 一瞬、躊躇ったもののライラは口内に液体を含んだ。案の定、素直に嚥下できそうもない苦味とえぐみが広がり、顔を歪める。

 しばらくして、ごくんと喉を鳴らしハーブティーを胃に送り込んだ。次に大きく息を吐く。

「……これは、お世辞にも美味しいって言えないかも」

 正直な感想を漏らすライラにマーシャはおかしそうに笑った。

「でしょう。良薬口に苦しとは言いますが、なかなか厳しいですね。でもよく効きますよ。単に眠くなるだけではなく、短時間で深い眠りにつき、質のいい睡眠をもたらすんです」

 その言葉に、ライラはカップの水面にかすかに映る自分をじっと見つめて、ぎこちなくももう一口、飲んでみた。けれど、どうしての飲みづらさは拭えなかった。
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