この想いが届かなくても、君だけを好きでいさせて。
彼は小学五年生から陸上部に入り、短距離が専門のスプリンター。


毎日毎日厳しい練習に耐えているので腹筋はチョコレートみたいに割れているし——私の前で恥ずかしげもなく着替えるから知っているわけだけど——ほんの少し茶色がかった前髪の長めの髪はサラサラで、爽やかさ全開。

身長が百八十センチ近くあるのに加え、鼻筋は通っているし、アーモンド形の目もパッチリしていて、いつも女子の視線を一身に浴びている王子さま的存在なのだ。

だけど、ずっと一緒に成長してきた私は、彼が泣き虫だったことを知っている。

幼稚園のころまでは虫が苦手で、毛虫を見るだけでよく泣いていた。

今ではそんな面影すらなく女子からキャーキャー言われているんだから、たいした変身ぶり。


彼とはいつも一緒に電車通学していて、遅い私を急かしに来たんだろう。


「お待たせ!」
「なんだその髪形」


私の顔を見た俊介は顔をしかめ、せっかく結んだゴムをするっと解いてしまう。
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