この想いが届かなくても、君だけを好きでいさせて。
目の前で動く大きな喉仏に視線が釘付けになっていると、彼は自分のTシャツの裾をまくり上げ、滴る汗をそれで拭った。

そのとき、腹筋がばっちり見えてしまい鼓動が勝手に速まっていく。

少しは、遠慮しなさいよ! 
ドキドキしちゃうじゃない。


俊介と一緒にシュークリームを食べたあの日から、ちょっとしたことで感情が大きく揺れる。


『俺にしとく?』と聞かれたとき、『うん』と答えていたらどうなっていたんだろうなんて、時々考えてしまうからだ。


「はー、生き返った。なぁ、珍しく稔がいなかったんだけど……」


彼の言う通り、いつも俊介の少しあとにゴールする稔の姿が見えてこない。


「どうしたんだろ。足の調子が悪いのかな……。私、ちょっと見てくる」


最近転ぶことがよくあるので、胸騒ぎがする。

私はマラソンルートを逆から自転車に乗ってたどり始めた。
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