この想いが届かなくても、君だけを好きでいさせて。
学校の周辺を走るルートは約五キロ。先頭の長距離選手は二十二分で戻ってきて、俊介は二十六分だった。

先週は少し遅れ気味だった稔もいつもは三十分以内には戻ってくるんだけど、少しさかのぼっても姿が見えない。


「西崎!」


そのとき二年生の先輩が向かいからやってきて私を呼んでいる。


「はい」
「糸井が調子悪そうで歩いてる。サポートしてやって」


やっぱり……。


「わかりました。先輩もう少しです」


私は先を急いだ。
するとあと二キロほどのところを、顔をしかめて歩いている稔が視界に飛び込んできた。


「どうしたの? 体調悪い?」
「急に足元がふらついて……。でも大丈夫」


稔は『大丈夫』と口にするものの、顔色が真っ青。


「乗って」
「いや、俺を乗せたらこげないって」


彼は首を振るけど、こいでみせる。


「いいから。これはマネージャー命令!」


そう急かすと彼は渋々乗った。
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