この想いが届かなくても、君だけを好きでいさせて。
「俊介?」


なにも言うことなく私を引っ張った彼は、滑り台の前で足を止め、私に真剣な視線を送る。


「稔は大丈夫だ」
「……うん」
「里穂は昔からそうだ。不安なときは黙る」


そうだっけ……。そんな自覚はない。

けれども、保健室で別れたときの稔の顔面蒼白の表情が頭から離れない。
あんな稔を見たのは初めてだ。

彼は必死に笑顔を作っていたものの、それが痛々しくてたまらなかった。


「だって、俊介も見たでしょう? 稔、すごく調子が悪そうだった……」


私を励ます俊介だけど、彼だってその表情は曇りっぱなし。

妙な胸騒ぎを感じてるのは私だけではないはずだ。


「稔は昔から無理するところがあるだろ? アイツ、長距離得意じゃないのに、いつも上位で踏ん張って……」


それにはうなずける。
足の速さだけ比べれば俊介のほうが速く、しかし稔は器用なので、ハードルの道を選び、いい成績を残している。

だけどふたりとも短距離が得意で、長距離は決して速くない。
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